「普通の人たち」をレイシズムに駆り立てるもの
先週にひきつづき、在日韓国YMCAへ。フリージャーナリスト、安田浩一の講演を聞く。「連続講座 移住者のリアリティ」 の第4期第4回「レイシズムの現場を取材して~社会を息苦しくするものはなにか」。
安田浩一はこの数か月間、在特会および「行動する保守」関連の取材を重ね、そのまとめの記事が載った『『g2』第6号がちょうど発売になった当日というタイミングだった。講演の内容は『g2』の記事「在特会の正体」でまとめられていることにそったもので、在特会および「行動する保守」のデモや街宣に参加する人たちが、何をきっかけに、どういう考えでレイシズムに染まっていったのかを、自身の取材体験をもとに解き明かすというもの。
この『g2』の記事は、おそらくこれまでに出た在特会に関する記事の中でもっとも深く、正確にその実態を記述したものだと思う。従来的な保守/リベラル、あるいはウヨサヨの枠組み彼らをとらえることがいかに的を外しているか、桜井誠の生い立ちから、京都や徳島の事件で逮捕された会員の自宅取材までを含んだていねいな取材によってそれを明らかにする安田の手腕は見事の一言。
前回のエントリーとももちろん関係することだが、この記事で何がわかるかというと、在特会や行動する保守の運動に参加している、多くは「ネット右翼」と呼ばれる人たちが、「いかに普通の人たちであるか」ということだ。
その多くは、どちらかというと引っ込み思案で、社会に対して思うところあっても友人たちの前でなかなか表明することができない。そこに、ネットで「真実」を明らかにし、社会に向けて不正(と彼らが認識しているもの)を告発している自分と同じような人達がいることを知り、一気に傾倒してしまう。デモや街宣は、政治的主張を発揮する場である以前に、同じような「感覚」を持つ隔絶した個が出会い、つながる場であり、自己実現のツールなのだ。だから彼らは友達同士で誘いあってデモや街宣に参加することはないし、デモが終われば一人で帰っていくのだった。
安田浩一が桜井誠の故郷にまでおもむいて取材した結果によれば、桜井の高校時代のクラスメートは誰も彼のことを覚えていなかった。正確には「存在感のないおとなしいやつ」としてしか記憶になかった。そして、そんな桜井が高校を卒業し、在特会を立ち上げて今のようなネトウヨのカリスマになるまでの十数年間はまったくの空白といっていいほどで、仕事の上でも社会的にも、注目されたりすることはなかった。つまり桜井自身が、社会において承認されることのない「隔絶した個」の一人であり、それを象徴する存在なのだと言ってもいいかもしれない。
また、在特会はよく囁かれるような大物政治家や既存の保守/右翼団体とのつながりもなく、バックに誰かスポンサーがいてカネをだしている気配もない。ある意味で純粋な市民団体なのだという。その点で、「頑張れ日本!全国行動委員会」のような団体とも性格を異にする。つまり、ポリティカルではないのだ。だから、暴走してしまう。
この講演を聞いた人がツイッターに書いた感想の中で以下のようなものがあった。
彼/彼女らが「在日」というとき、念頭に置かれているのはむしろそれによって象徴される「サヨク」なのだ
まさにその通りだと思う。しかもその「サヨク」には、実際には朝日新聞から産経新聞にいたるまでの大手マスコミ、保守リベラル双方の知識人、あまつさえ新右翼までもが含まれているのである。在特会の会員は自分たちの運動を「エリート批判」と言い、安田はそれを「物申す者」への反感と見ている。
彼らは自分より大きなものに逆らう言葉もロジックも持たない、そしてその闘えない自分を自覚しているがゆえに、物言う人々が嫌いなのだ。その「物言う人々」の象徴が、彼らの言う「サヨク」なのだ。「サヨク」がいるためにこれまで小声でひそひそとしか言うことができなかったことを、在特会や行動する保守の面々は街頭で堂々と主張している、多くの名もなき参加者は、そのことに惹かれている。しかしデモの場を離れれば、一人一人は柔和でおとなしく、物腰も丁寧な「普通の人」にすぎない。
『g2』の記事には書かれていなかった話で興味深かったのは、安田が日系ブラジル人の多い地区を取材していたときのこと。その地域では「職を失ったブラジル人たちが浜辺でスラムを形成している」だとか、コンビニに強盗に入ったといったたぐいのデマがまことしやかに流されていたが、そうしたデマを流しているのは、小さい子供を持った普通の主婦たちで、お母さん仲間に携帯の同報メールで送っていたりするのだという。あるいは、日系ブラジル人の取材をしていると言うと、「怖くないですか?」と尋ねられる。そうした傾向が、とくにリーマン・ショック以降強まったのだそうだ。もちろんそこに悪意はないし、そうした人たちがレイシストであるというわけでもない。ただ漠然と「外国人は怖い」という意識が広がっているのだった。
安田は言う。何も日本人が突然レイシストになったわけではない、普通の日本人の持つそうした漠然とした不安感と、そして知識やロジックの欠如が、一部の人たちを薄っぺらいゼノフォビアに駆り立てるのだと。そして在特会や行動する保守は、常に自分たちが被害者の側だと、真剣に考えているのだ。
これは正確な分析だと思う。今回の『g2』の記事でこうした分析が、幹部だけでなく実際に多くの一般参加者への取材によってなされた意味は大きい。
Notes
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